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横浜地方裁判所 昭和53年(ワ)1592号 判決 1982年4月22日

原告

谷五朗

右訴訟代理人

内山辰雄

被告

一柳清

右訴訟代理人

古屋倍雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二請求原因2の事実のうち、被告が昭和五一年暮、被告所有地上に原告主張の建物を新築したこと、原告所有地と被告所有地、原告所有建物と被告所有の新建物の位置関係が、ほぼ原告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

原告本人尋問の結果によれば、被告所有の旧建物が原告所有地と被告所有地との境界から約3.5メートルの位置に建てられていたことが認められ、右認定に反する被告本人の供述は信用し難い。

三<証拠>によれば、請求原因3の事実を認めることができる。

四<証拠>を総合すれば、被告が新建物を建築したことにより原告所有建物の一階全居室について冬至の日には午前一〇時頃から午後二時頃までの間、日照が得られなくなつたこと、従つて冬期間は原告所有建物の一階居室につき十分な日照が得られなくなつたこと、原告の妻が病気療養中であることが認められる。なお、請求原因4の事実中、その余の点については、これを認めるに足りる証拠はない。

五原告主張の請求原因5(一)事実中、被告が原告に対し昭和五一年五月中旬、被告所有の旧建物(平家建であつた。)を取壊し、二階建居宅を新築する旨申入れたとき、「建物は出来るだけ南側に寄せ、屋根も低くして日当りが悪くならないようにする。」旨約束したとの原告本人の供述は、被告本人尋問の結果に照らしてたやすく信用できない。

六<証拠>を総合すれば、被告所有地はほぼ石垣を境にして原告所有地より約一メートル六〇センチ高いひな段式の高地にあること、被告所有の旧建物の北側側壁は、被告所有地北側境界から約三メートル五〇センチ離れていた(この点前記認定のとおり)こと、被告所有地を約六〇センチメートルも盛土をした上に被告所有の新建物が建築され、しかも旧建物より約一メートル五〇センチ北側に寄せて建てられたため、右新建物の北側側壁は右境界から約二メートルしか離れないことになつたこと、被告所有の新建物の最高の高さは約八メートル二四センチであることを各認めることができる。

七<証拠>によれば、被告は被告所有地に高さ約六〇センチメートル盛土をしたため、被告所有地は原告所有地よりも約二メートル二〇センチ高い敷地となつたのであるから、建築基準法第八八条第一項、同法施行令第一三八条による規制を受けることになり、同法第六条に基づき建築主事に対し確認申請をし、同法第七条に基づく届出をしなければならないのに被告はこれを怠つたこと、しかしかような場合も申請及び届出をすることなくこの程度の擁壁を作ることはよくある事例であることを認めることができる。

八<証拠>によれば、横浜市旭区の技術吏員である鈴木清は、原告の告発に基づき被告の新建物の建築請負人であつた山本建築事務所の職人に擁壁部分の二メートルを超える部分の土を取除くよう行政上、勧告をしたが、同人らがこれに応じなかつたので、法律上排水設備の設置が義務づけられているわけではないが、U字溝の溝の底が原告所有地より約二メートルの高さになるように、盛土部分の土をとつてU字溝の排水設備を設けるように指導し、同人らはこれに応じて昭和五三年頃に至り被告所有新建物の北側側壁に沿つて排水溝を設置したことが認められる。

九<証拠>によれば、請求原因5(二)(3)の事実を認めることができる。

一〇<証拠>を総合すれば、被告が建築した新建物自体は、日照に関する横浜市の建築の基準(昭和四八年一二月二五日横浜市告示第三二〇号)には適合していることを認めることができる。

一一以上の諸事実が認められ、被告の新建物の建築により原告所有の建物一階居室の一部に冬期間午前一〇時頃から午後二時頃まで日照が得られなくなり、また被告の新建物の建築ならびにこれにともなう建物敷地の盛土につき一部建築基準法違反、宅地造成等規制法違反の点が認められないではないが、原告所有建物と被告所有建物との間隔は約一一メートルもあること、現時の一般的住宅事情、建築事情に照らせば、前記の程度の日照被害はいまだ受忍限度を越えるものとはいい難く、建築基準法違反、宅地造成等規制法違反の点も行政罰行政処分の対象となることがあるのは格別、対隣地者との関係でも違法との評価を受けなければならないものではない。従つて、原告の日照被害について被告に対し不法行為責任を追及する原告の主張は採用できない。

一二被告所有地北側にある石垣が、原告所有地に接して高さ約一メートル六〇センチ、勾配約七、八〇度をもつて築かれていることは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、右石垣は築かれてより約二〇年を経過して老化し、目地のセメントが幾分脱落したためか長雨、強雨のときは右石垣の下部に雨水が滲みることがあることが認められる。しかし原告所有建物は右石垣の下端より約八メートル五〇センチも隔つているのであるから、これがため原告らの健康衛生に被害を及ぼしてきたとは認め難い。

のみならず、前記八で認定したように被告は昭和五三年頃右石垣の上部に、被告所有新建物の北側側壁に沿つてU字溝の排水設備を設置したのであるから、地下水は兎も角、被告敷地上の雨水が右石垣に浸透することはなくなつたと認められる。

従つて、原告の土地所有権妨害または石垣(土地の工作物)の設置または保存に瑕疵があるとして被告に対し損害賠償責任を追及する原告の主張も採用し難い。

一三<証拠>を総合すれば、被告所有地の北側には塀がなく(なお<証拠>によれば、建築基準法上本件石垣の上に四段以上のブロック塀を積むことは許されないことが認められる。)、被告所有の新建物北側窓(五か所)には目隠がないこと、右窓から原告所有地及び原告所有の建物の南側居室が観望されることが各認められる。しかし一方前掲各証拠によれば、原告所有建物の南側庭(原告所有地である。)には相当古い大きな庭木が植えられており、春から夏さらに初秋にかけては右庭木が繁り木の葉によつて原告所有建物の南側居室の観望がさえぎられることが認められる。

そうすると、被告所有の新建物の北側の窓に目隠しがないことが原告に対する関係で、いまだ不法行為を構成するとまでは認め難い。なお、民法二三五条に関する原告の主張は独自の見解であつて採用の限りではない。

一四以上いずれの点についても、原告の主張する各被害は相隣者としての受忍限度内のものであり、原告の被告に対する不法行為に基づく慰藉料請求は理由がなく、従つて弁護土費用の請求もまた理由がないといわねばならない。

一五よつて原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(小川正澄)

目録、図面<省略>

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